愛人でしたらお断りします!


今、椿は蒼矢からビジネスについてほぼ一日中学んでいる状態だ。

隣りに住んでいるのがよかったのか悪かったのか、彼は朝一番から栢野家にやってくる。
時には朝食の時間に各部署からの新規案件についての説明を受けるのだ。
それから運転手が社有車で栢野家まで迎えに来ると、ふたりは一緒に会社へ向かう。

車内でも、パソコンのデータを見ながら各店舗の営業成績を確認する。
会社に着けば、また社長室で勉強だ。
来客予定があれば、その相手について覚えなければいけないことが山積みだし
会議があればそのテーマを頭に叩き込む。

一番大変なのが、退社してからだ。
運転手の手前、まず椿を栢野家でおろしてから蒼矢も隣の久我家まで社有車で送ってもらう。
運転手が去ってから、蒼矢は庭の枝折戸を抜けて栢野家に戻ってくるのだ。

蒼矢は椿の指導にとても熱心だ。
経営についてゼロから教えるという意味では一番の教師だろう。
なんの知識も持たない椿に、噛んで含めるように教えていた。

椿もまた優秀な弟子だった。
乾いたスポンジが水分を吸収していくように、教えられることを確実に覚えていった。
経営の基本的な知識を得て現実の数字と意味が繋がれば、少しずつではあるが身についていく。
周囲の助けを借りながら、けして‶張りぼての社長”と思われないように必死になっていた。

そんなふたりの慌しい日々が、もう何日も続いている。



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