愛人でしたらお断りします!
「ナイトか……」
久保田に言われた言葉を思い出して、蒼矢は苦笑した。
(そんないいもんじゃあないが)と彼自身は思っている。
なにしろ今の椿は精神的にも肉体的にも余裕がない。
両親を亡くしてから必死で経営を学んで頑張っているが、心が折れそうなのは側にいる蒼矢が一番よくわかっている。
それでも蒼矢は、葬儀の時に儚げな椿を見た時に決めたのだ。
世間の荒波から守ってやりたい。自分こそが彼女を守ってやるのだと。
(そのためにはなんでもやってやる)
いきなりの社長だから、まず侮られない最低限のことだけを椿に教えている。
椿を守るためには、彼女自身にも闘う力が必要だ。
そのために蒼矢は椿の一番近くにいて外敵から守りつつ、経営者として認めらるための手助けをしていた。それは椿のためだけでなく、自分のためでもあった。
(執着しているのか、俺は……)
彼は幼い頃からすぐ側にあった大事な宝物を、ほかの誰にも渡すつもりはない。
彼女が世間に認められたら、堂々とKUGAコーポレーションの後継ぎの妻として迎えるつもりだ。
蒼矢自身からはまだ椿になにも告げていないが、きっと自分を受け入れてくれると信じている。
椿を手に入れるために、今は告白するより彼女を育てる方が大切だと蒼矢は考えていた。