愛人でしたらお断りします!


「お待たせしました~」

蒼矢の焦燥感を知らない椿が、部屋着に着替えてのんびりとした調子でダイニングルームに入ってきた。
柔らかそうな生地の、彼女がお気に入りのワンピースを着ている。
いつも椿が着ていた服なので、前はぴちぴちだったウエスト周りがゆったりとしたラインに変わったのがよくわかる。

(少し痩せたか?)

自分が厳しくし過ぎたせいかと、チクリと蒼矢の胸が痛んだ。
叔父のおかげで信頼を失いかけた会社が軌道に乗るまでは、椿には無理をさせてしまうかもしれない。

(椿、もう少しだから頑張ってくれ)

社長として誰からも認められるよう、椿を磨くことに集中しなければと蒼矢は気を引き締めた。

「食事しながらはマナー違反だけど、急ぐ案件があって」
「新作のレシピですか?」

ダイニングのテーブルにはシェフの宮崎が考えてくれた食べやすいメニューが並んでいる。
シチューや軽いキッシュだから話したり資料を見ながらでもカトラリーひとつで食べられるのだ。


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