愛人でしたらお断りします!
「ああ、君は得意だろう? こればっかりは俺にはさっぱりだ」
「次こそヒットするお菓子を売り出したいですね……」
右手にスプーン、左手に資料というお行儀の悪さだが、それを久保田夫妻も咎めなかった。
時間が惜しいから、椿と蒼矢はいつのまにかこんなディナーになってしまったのだ。
「明日にでも、拓真君と相談してみます」
「俺は夕方からは、KUGAコーポレーションに定期報告に行くんだが……」
出向という手前、祖父である社長には定期的にプティット・フルールの現状報告が必要らしい。週に一度、KUGAコーポレーションへ蒼矢は行くことになっている。
逆に、プティット・フルールも輸入品の最新情報を手に入れられるから助かっている。国産品ももちろん使っているが、乳製品やチョコレートなど菓子作りには欠かせない輸入品もある。
「大丈夫。新しいお菓子の話なら私ひとりで商品開発部に行ってきます」
「そうしてくれたら助かる」
この夜もふたりは仕事の話ばかりだった。
久保田夫妻が望むような甘い雰囲気にはどうやらなれそうにはなかった。