愛人でしたらお断りします!
ふたりの関係
プティット・フルールは、銀座大通りに本社ビルを所有している。
一階が店舗で二階がティーサロン、三階はレストランだ。
一部の生菓子はここでも作っているが、本格的な工場は栃木と兵庫にある。
またビルの上階には事務部門と商品開発部の試作用キッチンなどがあった。
蒼矢がKUGAコーポレーションへ報告に行っている時間は、椿にとって唯一の息抜きだ。椿は書き溜めたレシピを持って商品開発部に足を運んだ。
ガラス越しに試作用のキッチンを覗くと、料理長や数人のパティシエが熱心に話し合っているのが見えた。
その中に、従兄妹の栢野拓真の姿があった。
拓真はあの叔父の息子だが、椿にとってはケーキ作りの仲間だ。
彼女より四つ年上で、すでにコンクールでの入賞歴がある有望なパティシエとして商品開発部の係長を任されている。
「こんにちは!」
久しぶりの仲間に椿は明るく声をかけた。
「おや、椿さんじゃないですか」
「やあ、元気そうだね」
ケーキ職人として商品開発に携わってきた仲間たちは温かく迎えてくれた。
「今、お邪魔していいですか?」
「ちょうどよかった。アイデアに煮詰まっていたんだよ」
拓真が嬉しそうに椿を迎え入れた。