愛人でしたらお断りします!
それからは具体的なレシピと今後のスケジュールを確認する作業になった。
もちろん試作品を作ってから最終決定になる。
「よろしくお願いします」
「楽しみにしててくれ、椿社長」
「みんな……ありがとう」
商品開発部では椿を囲んで、ケーキ談議に花が咲く。
あまりの楽しさに椿も時間を忘れて話し込んでしまった。
「大変、もう6時だわ!」
椿は時計を見て慌てた。そろそろ蒼矢が社長室に帰ってくる時間だ。
KUGAコーポレーションの様子を聞かなければいけないのだ。
「次の予定があったの?」
「うっかりしていました。15階に戻らないと」
パティシエたちは同情的だ。わずか半年の間に椿はすっかり痩せていた。
やつれたといってもいいだろう。
「慣れないことしてるから……大変だね」
「また、いつでも遊びにおいで」
総料理長まで気軽に声をかけている。
「遊びにって、総料理長ったら……ここは職場ですよ」
「あ、そうだった」
みんなの大笑いが椿にも移り、気がつけば声を立てて笑っている。
(こんな大きな声で笑うのはいつ以来だろう)
ただ仲間と笑い合うことが、今の椿にはとても大切なことに思えた。