愛人でしたらお断りします!
ふと、拓真が出入り口の外から椿を手招きしているのが見えた。
「それじゃあ、お疲れ様でした」
みんなに挨拶してから椿が商品開発部を出ると、廊下で待っていた拓真が改まった顔をして椿に声をかけてきた。
「椿……」
「なに? 拓真君」
「ごめんな、親父のこと」
拓真は父親がプティット・フルールの社長の座を奪ってから他社に吸収合併させようとしたことを謝っているのだろう。
「もう気にしてないよ。それに、拓真君は関係ないでしょ?」
「でも、僕は……」
自分にも責任があると言いたそうな顔だった。
だが、もう過去のことにしたいと思った椿は話題を変えた。
「それより、真由美さんは叔父さんがここを辞めさせられたこと怒ってない?」
「真由美姉さんはこの会社には関心がないからな。親父がなにをしようと無視してるよ」
「そう……放送局に勤めていると、あれこれ耳にしたり噂されたりして嫌だろうなと思って」
「姉さんは、椿に申し訳ないって言ってたよ」
椿は拓真の姉、真由美とも仲がよかった。彼女は放送局のディレクターをしている。
仕事柄、情報がいち早く届くだろうから真由美が父親の醜聞をあれこれ言われているのではと心配していたのだ。
「お互い、今回のことは忘れようね」
「ああ、いい仕事して名誉挽回するさ」
「期待しています」