愛人でしたらお断りします!



その雰囲気にのまれないように、椿は必死で自分の役割をこなしていた。
事前に蒼矢から聞かされていた大切な取引先には丁寧に話しかけ、笑顔を絶やさないように心がけた。
もちろん、冷や汗をかくような相手ばかりではない。
先代や先々代から付き合いがある場合は好意的に応対してくれたし、孫のように可愛がってくれる人もいれば結婚相手を紹介しようと言ってくれる人もいた。

(そろそろ、ご挨拶は終わりかな……)

蒼矢から指示されていた大切な仕事関係者にはすべて挨拶したはずだ。
側にいると言っていたのに、彼は早々にKUGAコーポレーションの取引先につかまってしまい、この広い庭園のどこにいるのかさっぱりわからなくなっていた。

(疲れた……)

緊張して昼から殆ど食べ物を口に入れていない。
おまけにビールを注がれれば飲まざる得なかったので、椿は少し頭がボーっとしてきた。

(蒼ちゃんを探して、そろそろ帰ろう)

キョロキョロと見回したが、遠くはもう人の顔が確認できない暗さだ。
椿は途方に暮れてしまった。


< 39 / 129 >

この作品をシェア

pagetop