愛人でしたらお断りします!
「あら、椿さんじゃあないの?」
その時、和服姿の美女が椿に声をかけてきた。
(どこかで会ったような……)
思い出すのに少し時間がかかったが、大手飲料メーカーの社長令嬢で料理研究家として最近話題になっている春日あかねだと気がついた。
たしかクラスは違ったが、高校の同級生だったはずだ。
「ご無沙汰しております」
スラリとしたあかねは、黒地に金箔で兎が跳ねているモダンな柄の付け下げを着こなしている。
だが椿に対しては嫌な視線を向けてきた。
理由はわからないが、椿はなんとなく彼女に値踏みされている気がした。
「あなた、高校の頃からお変わりないのね」
あかねとは久しぶりに会うし、高校時代も付き合いはなかった。
彼女は内部進学で大学に進み、椿はパティシエの資格が取れる別の短大に進学していた。
当時からあかねは華やかな顔立ちだったから、今夜も濃い化粧がさまになっていた。
椿の化粧っ気のない童顔や地味なベージュのスーツ姿は、彼女から見れば野暮ったいのだろう。