愛人でしたらお断りします!
あかねが勝ち誇ったような顔をした。
「あの……それは?」
あかねの言葉を聞いても要領を得ない椿の返事に、あかねの美しい眉がつり上がった。
「つまり、正式に、久我さんと、結婚を前提にお付き合いさせて頂こうと思っていますの!」
「は、はい」
やっと意味がわかった椿はどう答えようかと迷った。
蒼矢からはなにも聞いていないのに、『おめでとうございます』はおかしいだろうし、『よかったですね』と言ってもあかねは納得しなさそうだ。
逡巡している椿に、あかねたちは痺れを切らしたのか好き放題喋り出した。
あかねの取り巻きたちはどこまで事情を知っているのか、椿の家庭環境まで持ち出してくる。
「蒼矢さんはお優しいから、ご両親を亡くされた方に同情なさっているんでしょう」
「そう? でもKUGAコーポレーションに比べたら小さな洋菓子の会社なんだから。 資本金も桁違いだし、なんのメリットもないでしょうに」
会社まで馬鹿にされた気がして悔しくもあったが、これでも椿は社長の肩書きを背負っている。
彼女たちの父親の会社と自社は同じ業界にいるのだから言葉を選ばなければ失策になってしまう。椿はただ黙って聞いていた。
「物珍しかったんじゃあありません?」
「そうね、ずいぶん子どもっぽい方みたいだから……」
延々と彼女たちは喋り続けている。
(私が取り乱したり、幼い頃のように泣き出すのを待っているのかな)
子どもの頃の久我家での苦い思い出が蘇ってきた。
もうあの頃のように、自分を庇ってくれる人はいないのだ。
自分を否定される言葉を聞かされ続けていたので、椿は気分が悪くなってきた。