愛人でしたらお断りします!
「さっぱりした……」
思わず声に出していた。
赤ワインの匂いもベタつきも拭き取ったので、椿はやっと落ち着いた。
夢中で洗い流していたから、洗面所の中は蒸気で鏡が曇るほどだ。
換気扇を回し忘れたのに気がついて、慌ててスイッチを入れる。
湿った空気の中で着替える気になれず、椿は社長室に戻った。
すると目の前に、ソファーに足を組んで座っている蒼矢がいるではないか。
「あ、あれ? どうしたの?」
「秘書になにも言わずに帰るバカがいるか!」
いきなり蒼矢に怒鳴られてしまった。
「ごめんなさい、チョッと……」
「話はウエイターから聞いた」
「そう?」
どこまで聞いたのか、椿は少し不安になった。
ウエイターが個人的な話を喋ったとは思えないが、あかねたちとの諍いを蒼矢に知られたくなかった。
「お前、なにやってるんだ……」
蒼矢がソファーから勢いよく立ち上がって、椿の方へずんずんと近づいてくる。