愛人でしたらお断りします!
「ごめんなさい、怒らないで!」
蒼矢にいつもと違う空気を感じたので、とにかく椿は謝った。
その時にやっと、椿は自分の姿に気がついた。
タオルを手にしているが、上半身はブラジャーだけ。
かろうじて下半身はキチンと服を着ているのが、かえって不格好だ。
「すぐ着換えるから!」
くるりと振り向いて化粧室に戻ろうとしたが、がっちりと蒼矢に腕をつかまれた。
「じっとしてろ!」
椿はそのまま彼の胸元に抱き込まれてしまった。
まるで後ろから羽交い絞めされているようなかっこうだ。
「危なっかしくて、見ていられない」
「蒼ちゃん……」
蒼矢の声は苦し気だ。
「ちょっと目を話したら、おっさん連中は椿が可愛いからって酒を飲ませようとするし若い連中は結婚相手に自分を売り込んでるし……」
「そんなことないよ、私なんか……」
「あまり露骨に皆からチヤホヤ言い寄られてるから、女性陣からは余計な嫉妬は買ってるしな……」
蒼矢がなにを言いだしたのか、椿にはさっぱり見当もつかない。
チヤホヤとか嫉妬とか、これまで椿が言われたこともない言葉だ。
彼も珍しく酔っていて、なにを言ってるのかわからないのかと訝しく思ったくらいだ。
「まさか? 嫉妬とか、違うから。あれは……」
「あれは?」
「皆さん、蒼ちゃんに気があるから……」
「俺に? それで?」
こういう時の蒼矢は始末に負えない。納得するまで質問責めにされるのだ。
「私はそんなつもりはないんだけど、皆さんは誤解されてるみたいだから」
「そんなつもりって、なんだ?」
「え……と?」
少し酔っている椿の頭では、話がどの方向へ向かっているのかわからなくなってきた。