愛人でしたらお断りします!
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蒼矢はパーティー会場で椿と一緒に挨拶回りをしていたら、KUGAコーポレーションの取引先につかまってしまった。
無視する訳にもいかず、椿にはしばらくひとりで行動するように伝えて別れた。
思ったよりも話が長引いたあと椿を探そうとしたら、篝火や照明がいくつかあっても夜の闇の中では顔の見分けがつきにくい。
やっと仕事関係者から離れたと思ったら、今度は女性陣に囲まれた。
取引先との食事会だと聞かされていった先で、だまし討ちのように仕組まれた見合いの相手、春日あかねたちのグループだ。
「この前は、どうもありがとうございました」
あかねには断りを入れたはずなのに、にこやかに話しかけてくる。
「いえ」
「久我さんにまたお会いしたいと思ってましたの」
「そうですか」
蒼矢が素っ気なく言っても、あかねはグイグイ押してくる。
「久我さんはお琴の演奏には興味がおありですか? 実は私、この後演奏いたしますの」
「そうですか」
「ぜひ、聞いていただきたいわ」
早く椿を探したいのに、あかねはあれこれと話しかけてくる。
彼女の取り巻きか、同世代の女性陣は興味深そうにやり取りを聞いている。
「せっかくですが、仕事がありますので」
いっそう冷たく言い放つと、あかねの口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
「あの社長さんなら、もうお帰りになりましてよ」
「えっ?」
あかねの美しい顔が篝火に照らされて少し歪んで見える。
「なにか粗相をなさったみたい。会場から走って出て行ったのよ」
あかねたちは愉快そうにクスクスと笑っていたが、蒼矢は無視してその場を離れた。
まさか椿が会場から姿を消していたなんて、気づきもしなかったのだ。