愛人でしたらお断りします!
「なにしけた顔してるの?」
リビングから、会社の近くにひとり暮らしをしているはずの姉の声がした。
「あ、姉さん……どうしたんだ?」
拓真は姉の前でも表情を取り繕うことができなかった。
「たまにはあんたたちの様子を見ようと思って、お忙しいディレクターが帰ってきたのに、なによその顔」
キー局の制作部で朝のワイドショーを担当している真由美は、普段は朝4時起きだ。めったに実家へは帰ってこない姉が、久しぶりに顔を見せていた。
自立したとはいえ、あれこれ父や弟のことを気にかけているのだろう。
「元気ないわね、この前のケーキ、人気出なかった?」
「べつに」
弟の浮かない顔を見て、口調はぶっきら棒だが心配そうな顔をしている。
「じゃ、なんかやらかした?」
「いや……」
真由美は覇気のない返事をする拓真に、チョッと悪戯を仕掛けてきた。
「さては、椿ちゃんにフラれた?」
面白いくらい、拓真の表情が変わったのを見て真由美はほくそ笑んだ
「あら、図星なの?」
「いや……僕は……」