愛人でしたらお断りします!
そんなんじゃないと言いかけて、拓真はふと気になることを思い出した。
「姉さん、会社の後輩が久我蒼矢の噂をしてたとか言ってなかった?」
「ああ、あの話? 同僚に聞いたのよ。その子の友人が久我さんと結婚を前提につき合っているとか言ってたわ。なんか有名な会社の令嬢で料理研究家とか言ってたかな~」
姉の情報網は確かだ。信憑性は高いだろう。
「決まりだな、それ。」
「たぶんね。久我蒼矢に女性の噂はなかったけど、いよいよ本命かもしれないわ」
真由美は意味深長な顔をしている。
「モテるからなあ、久我さんは」
「私はキライだけどね、あんなサイボーグみたいな男」
「サイボーグって……」
姉と蒼矢は同い年で、高校は同窓だったはずだ。
拓真の知らない久我蒼矢の姿を姉は学生時代から見ていたのだろう。
「家柄よし、顔よし、身体よし。だけど性格悪いじゃない」
「え? あの人、性格悪いのか?」
「そうよ。冷淡だし仕事では容赦ないし……昔から知ってるけど表情ひとつ変えないでしょ。だから高校時代はサイボーグってあだ名だったのよ。笑ったり怒ったりしたところ見たことないわ」
真由美はあまり人の噂話をしないが、蒼矢に対しては容赦なかった。
だが拓真には信じられない。彼が知っている蒼矢は椿をからかって楽しそうにしている。
「だけど、椿には優しいよ。いつも一緒にいるし」
「そりゃあ、あの子は……」
『特別だもの』そう言いかけて、弟の気持ちを思いやった真由美は口を閉じて話を変えた。
「で、どうしたの?」
「ふたり、付き合ってるのかも。社長室でヤバかったんだ。抱き合って……」
ポツリと弟の漏らした言葉に、さすがの真由美も息を呑んだ。