愛人でしたらお断りします!
「その話、詳しく聞かせなさい」
その時、いきなりドアが開いて姉弟が寛いでいたリビングルームに聡志が現れた。
自室で飲んでいると思っていたから、油断していた。
「聞いてたのか!」
拓真は焦った。一番この話題を聞かれたくない相手だった。
酔って赤らんだ顔をした父親は見たこともないくらい不気味に笑っている。
「そうか、あいつらが……」
ニマニマと笑いながら、聡志は策略を巡らせているようだ。
椿と久我蒼矢に社長の座を奪われたと思っている聡志は、拓真のもたらした情報を小躍りするほど喜んだ。
「これで、久我の若造を脅せるかな? いや、ここは椿を懐柔したほうが上手くいきそうだ」
ひとりごととは言えないくらい大きな声でぶつぶつ言っている。
「父さん、なに考えているんだ?」
拓真は自分のミスを呪いたくなってきた。
これ以上、椿に迷惑をかけられないと思っていた矢先のことだった。
「拓真、お前にはメリットしかない話だ。椿のことが好きなんだろう?」
「そ、それは」
父親から図星をさされて、拓真には返す言葉もない。
「お前と椿を結婚させてやるよ。そうすれば……」
「まさか! 椿の気持ちを考えろ!」
フンと、聡志は鼻で笑った。
「どうせ椿は久我にそそのかされるか遊ばれているのさ。あの取り柄のない娘に久我が興味を持つわけないだろう?」
「椿だって、いいところは沢山あるんだ!」
「お前は惚れた弱みでよく見えてるだけさ。あんな平凡な娘……哀れだろ、弄ばれて捨てられたら。そうなる前に悪縁を切ってやるんだよ」
「バカらしい……私はこの話は聞かなかったことにするから」
真由美は父親の話に嫌気がさしたのか、さっさと帰っていった。