愛人でしたらお断りします!
ひと言も話さない椿に痺れを切らしたのか、叔父がとんでもないことを言いだした。
「そこで、どうだろう。うちの拓真と結婚しないか?」
「え?」
椿は耳を疑った。
「従兄妹同士だから結婚できるし、そうすれば久我君との関係も切れるだろう」
「そんな、関係なんて……私たちなにもありませんから!」
沈黙するのをやめて必死で椿は否定するのだが、叔父は聞く耳を持たない。
「お前のためにも愛人でいるより正式に結婚できる方がいいに決まってる」
「ですから! そんな関係なんてないんです!」
椿は大きな声を出してしまった。ここで認めてしまう訳にはいかないのだ。
だが叔父は嫌らしい笑いをやめようとしない。
「だが、証人もいるんだ。拓真はふたりを見たんだろう?」
叔父は今度は拓真に話を振っている。
椿も拓真の方をすがるような思いで見つめた。なんとか彼に助けて欲しかったのだ。
「拓真君?」
「俺、見たんだ。この前の夜……この部屋でふたりが……」
残酷なことに、拓真は椿の味方では無かった。
「待って! それ以上言わないで!」
椿の心からの叫びに気おされたのか、拓真は口を閉じた。
「時間をください。せめてひと晩……」
肩を震わせながら椿はソファーから立ち上がった。
「お話はわかりました。どうぞ、お帰りください」
どっこいしょと叔父は重そうな腰を上げて立ち上がった。
拓真はまだ座り込んでいる。
「いい返事を待っているよ、椿」
叔父はそう言い残すと、拓真を引っ立てるようにして立ち去っていった。
ひとり社長室に立ち尽くす椿の頬には涙が流れていた。