愛人でしたらお断りします!


庭の枝折戸をもう一度確認に行っていた執事の久保田も戻ってきたが、特に異常は見られなかったらしい。
もちろん、椿が庭に倒れている姿もないから急病ではなさそうだ。

「ああ、どうしましょう! そろそろ運転手が迎えに来る時間です!」

幸子はもうパニックだ。

「運転手が来たらチョッと体調不良だと伝えて先に行かせてくれ。俺は市岡になにか変わったことがないか聞いてくる!」

蒼矢は栢野家から全速力で走った。


「市岡!」

枝折戸から久我家の庭に飛び込み、走りながら大声で家令を呼んだ。
市岡も何事かと屋敷からすぐに顔を見せた。

「椿のことで、なにか気になることはなかったか?」

玄関先に立つと、乱れる呼吸のまま蒼矢は市岡に問い質した。

「椿様になにかあったのでございますか?」

市岡は口が堅いとわかっているから、蒼矢は隠さずに伝えた。

「椿がいないんだ。家に帰っていないらしい」
「ええっ⁉」

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