愛人でしたらお断りします!


椿は祖父のお気に入りだ。
祖父というより、亡くなった祖母がたいそう椿を可愛がっていた。
栢野家に嫁いていた祖母の大親友と椿がよく似ているかららしい。

その人は、椿の父親がまだ幼い頃に亡くなった。
ふっくらとした愛らしい顔立ちの穏やかな性格の人で、隔世遺伝なのか容姿も性格も椿が受け継いだというのが祖母の口癖だった。

祖母が健在の頃は、久我家では蒼矢と同じくらいの年頃の子を集めてよくパーティーが開かれていた。
小さい頃から社交性を身につけるための会だったが、椿はパーティーに招待されてもいつも浮かない顔だった。どうやら人と話すのが苦手だったらしい。
メンバーの中で少し年下だった彼女は、少女たちからふっくらしているのをからかわれて容姿に自信をなくしていた。
いじめを知った祖母は激怒して、その少女たちが呼ばれることは二度となかった。
そんなことがあってからも祖母は椿を招待したのだが、どうしても会場の隅っこにポツンと立っていることが多い。そんな彼女を祖母は特に気にかけていたようだ。

『ひとよりも繊細でよく気がつく子だけど、自己主張するのが苦手なのよ』

亡くなった祖母の親友も同じで、優しいけれど気が弱い一面もあったそうだ。

『側にいてくれるだけで癒されるのだけど、傷つきやすいから心配なの』

蒼矢も祖母の意見に同感だった。


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