愛人でしたらお断りします!


「あちゃ~、またか!」
「カワイイカワイイって、大変よ」

笹本の両親や兄夫婦、そして笹本屋の従業員たちは子ども好きが揃っていて、ちょっと顔を見せると陸仁と優愛はいつも引っ張りだこになる。

「あの子たち‶湯の町せんべい”好きだからなあ」
「噛んだらパリパリ、口に入れたらさっと溶けるから子どもが喜ぶしね」

きっとおやつにと、少しだけはしっこを食べさせてもらっているのだろう。
笹本夫妻はいつものことだと諦めてはいたが、少しうんざりした表情だ。

「凄いですよねえ、あのおせんべい」

椿も湯の町せんべいがこの地の名物とは聞いていたが、初めて食べた時は驚いた。

「バターも卵も使っていないのに、素朴で美味しくて」
「ま、それだけはすごいと思うよ」

笹本は自慢げだ。洋菓子職人になったとはいえ、‶湯の町せんべい本舗 笹本家”は彼の原点なのだ。

椿と藍里は彼を横目にヒソヒソと相談を始めた。
子どもたちが周りの大人に甘やかされて育っているから、来春にはふたりを近くの保育園に預けようかと考えているのだ。


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