愛人でしたらお断りします!


「そろそろ、真剣に決めなくちゃ」

藍里が声を潜めて話しかけてきた。

「藍里さんも、春からお店に戻ってくる予定なんですよね」

店が順調だからアルバイトの店員を雇うことも考えたが、そろそろ藍里も働きたいらしい。

「オープンした頃は経営が厳しかったから、私が店番とか雑用をしていたの」
「そうだったんですか……」

人気店になった今では想像もできない話だ。
そういえば笹本が職人を探して芦屋に来た頃は、『やっと店が軌道に乗ったから人を増やしたいんだ』と言っていた。

「私は子育て優先させたかったから、あの時に椿ちゃんが来てくれて大助かりだったわあ」
「いえ、そんな」

慌てて椿は否定した。椿の方こそ、妊娠出産と笹本夫妻の助けがなかったら乗り越えられなかっただろう。

「いや、実際のところ椿ちゃんはセンスがいいから助かってるよ」

笹本も厨房から出てきて、椿たちの会話に加わった。
子どもたちをどうするかの話には、自分も店主として参加したいようだ。


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