愛人でしたらお断りします!
六時になったらシャトンは閉店だ。
子どもたちはお隣の笹本屋で預かってくれていたので、椿は優愛を迎えに行こうと藍里に声をかけた。だが、笹本夫妻はもうしばらく陸仁を預けておくようで、ふたりだけで出かけてしまった。
坂道をまるで恋人のように手を繋いで登っていく後姿を見送りながら、椿はチョッピリ羨ましくもあった。
(あれが夫婦の姿なんだ……)
気を取り直して、椿は笹本屋の暖簾をくぐった。店内はせんべいのいい香りがする。
「こんばんは。お世話になりました」
「あ、椿ちゃん、お疲れさま」
店員や職人たちと気安く挨拶を交わしていたら、娘が椿の顔を見て声をかけてくる。
「マーマ!」
優愛はご機嫌だ。笹本家ではいつも大切にされているから居心地がいいのだろう。
椿は従業員が抱っこしてくれていた優愛を受け取った。
「今日もありがとうございました」
「バイバイ、優愛ちゃん。またきてね~」
ニコニコ笑いながら、優愛は笹本屋の従業員たちに手を振った。
店内にいた観光客たちも、優愛の可愛い仕草に目を細めている。
今の優愛はとても愛くるしい顔立ちだが、将来は蒼矢に似た整った美人さんになりそうだと椿は思っている。