愛人でしたらお断りします!
逃げても無駄
藍里が牧場に手配してくれたので、卵はすぐに届いた。
笹本と椿は慎重に吟味してみる。
少し小ぶりだが殻がしっかりと硬いし、割ってみるとその黄身の濃さに驚いた。
「わあ、なんて濃い黄色なんでしょう」
「濃厚な感じだね」
思わず声に出てしまうくらいの上質な卵だった。
ふたりの声を聞いて、藍里も自慢げだ。
「エサに近くの酒造会社からもらった麹や、カニの殻を配合して使ってるらしいの」
「凄いですね。こだわっているのに値段も手ごろだし」
この卵でコクのあるカスタードクリームが作れたら、椿の計画が一歩完成に近づくのだ。
「さっそく試作品を作ってみますね。あ、これにはお隣にも協力してもらっていますから」
「は、笹本屋に?」
笹本と藍里は具体的には椿の考えている商品のレシピを聞かされていないので、どうして湯の町せんべいを作っている店の協力が必要なのかと半信半疑だ。
「楽しみにしててください!」
笹本と藍里にニッコリと笑顔を見せながら、自信ありげに椿は宣言した。