愛人でしたらお断りします!
椿の不安を消し去るように、新しいシュークリームは常連客からは絶賛された。
口コミで自然に客が増えていったし、もの珍しさもあってか若い観光客はインスタ映えするからと写真をアップしてくれた。
おかげで関西圏ではあっという間に‶シャトン”の名が拡散していった。
もちろん、軽いシューと濃厚なクリームがマッチして味もいいから人気が出たのだろう。
‶湯の町シュークリーム”というなんとも言い難いネーミングがさらに受けた。
年が明けて間もなく、関西ローカルの旅番組で紹介されるほどになっていた。
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好きなものを諦めるというのは、そう簡単なことではない。
執着心が強ければ強いほど難しいことだ。
あれから二年以上が過ぎた今でも、蒼矢の心はあの夜にとらわれたままだった。
蒼矢は自分がこんなに女々しいとは思ってもいなかった。
けれど、どうしても椿を忘れることはできないのだ。
幼い頃からずっと自分の手の届く所にいた椿。
手のかかる面倒なヤツだと思っていたが、知らないまに椿の存在は自分の中で変化していたのだ。
素直に自分を見つめてくる瞳、なにに対しても一生懸命な姿勢。
他人から褒められても自信なさげで、いつもはにかんでいた椿の表情。
(どこまで逃げても見つけだしてみせる)
蒼矢が焦れば焦るほど、椿の行方は掴めなかった。