愛人でしたらお断りします!
椿が簡単な置手紙だけを残していなくなった日、蒼矢はいつも通りプティット・フルールに出社した。
椿は‶体調不良”ということにしようと副社長の浜坂と密かに打ち合わせをしていたら、栢野聡志が堂々と社長室に姿を見せたのだ。
創業一族としては背任にも近い行為をしておきながら、どういう魂胆かと思っていたらとんでもないことを言いだした。
『今度、椿と拓真が結婚してプティットフルールを守っていくことになった』
蒼矢には信じられない言葉だった。
たったひと晩でなにが起こったのか、訳がわからなかった。
『久我君の仕事は終わったんだよ。これからは私と拓真で椿を支えていくから』
大きな顔をして社長室に居座る椿の叔父を見て気がついた。
(こいつ、椿が家を出たことをまだ知らないんだ……)
そこへ、青い顔をした拓真が飛んできた。
「父さん、なに勝手なことしているんだ!」
珍しく父親に声を荒げる拓真を見て、『なにか隠している』と蒼矢のカンが告げていた。