愛人でしたらお断りします!
蒼矢はふんぞり返っている聡志を浜坂に任せて、拓真だけを連れ出した。
「話がある」
拓真も黙って蒼矢の後についてきた。
ふたりはなにも話さないままビルの屋上へ上がると、一対一の男同士として向き合った。
蒼矢の方がスラリとやや背が高いが、職人として体を鍛えている拓真はがっちりとしている。
ふたりはしばらく黙ったまま向き合っていたが、先に蒼矢が口を開いた。
「……昨夜、なにがあった?」
「それは……」
「親父さんは知らない様だが、君には話しておこう。椿がいなくなった」
「ええっ⁉」
蒼矢に対して硬い表情だった拓真が『椿がいなくなった』と聞いて狼狽えた。
「ど、どうして……そんなことに……」
「こっちが聞きたい。昨日、俺がKUGAコーポレーションへ行っていた間に君たち親子が社長室に来たことまでは調べがついている」
「ああ……そうだ」
そう言うと俯いてしまった拓馬はなにか言いたそうだが、言葉を発するのが怖いのか奥歯を噛みしめている。
「もう一度聞く、昨夜なにがあったんだ?」
拓真は威圧感がある蒼矢の冷たい声を聞くと、さらに顔色を悪くした。
(生半可な言い訳をしたら、この男は自分を一生許さないだろう)
そう悟った拓真は顔を上げると、じっと蒼矢を見つめた。