愛人でしたらお断りします!
(俺が誤解させてしまったのか……)
拓真から聞いた話では、椿は俺が近く結婚すると思い込まされたようだ。
しかも俺との悪い噂があるとか俺に遊ばれているとか散々な話を叔父から聞かされていた。
椿の自分への信頼は地に落ちていることだろう。
(あの夜に気がついていたら)
なん度も思い返したが、久我家に来たときの椿の様子に不自然さはなかった。
自分で焼いたお菓子を持参することはよくあったし、市岡も不信に思うことはなかったと言っていた。
ただ、椿から蒼矢に身を任せた以外は。
それでも蒼矢は、しばらくして会社が落ち着けば椿が自分から帰ってくると信じていた。
だから副社長の浜坂と共謀し、椿がいなくなったことを振せて事後処理をしたのだ。
椿は病気療養中としてプティット・フルールの社長を浜坂に任せたが、社長の交代を世間に発表しても椿からはなんの連絡もないし帰ってくる気配もない。
やっと『これはただ事ではない』と気がついた蒼矢だったが、いつまでもプティット・フルールにいられる訳ではない。彼には彼自身の仕事があるのだ。