愛人でしたらお断りします!
黙り込む蒼矢の返事を無視して、祖父は話を続けた。
「椿ちゃんは、ケーキ職人になるよう生まれてきた子だ」
「社長……」
「お前には言わなかったが、椿ちゃんとお前の結婚は、亡くなった両家の祖母さん同士が望んでいたことでもある。私も反対などしていない」
初めて祖父の口から‶椿との結婚”という言葉が出てきた。
思わず蒼矢はその言葉を確かめるように聞き返してしまった。
「それは、もう俺たちは家同士の約束では婚約していたようなものだったということですか?」
祖父は頷いた。
「なにもしなければ、そうなっていたものを……お前が世間に椿ちゃんを無理やり引っ張り出してしまった」
椿が久我家の後ろ盾を得て社長になったことが周知されたから、
今さら両家の間で結婚の話があったことなど公表する訳にはいかなくなった。
まるでKUGAコーポレーションが婚姻を理由にプティット・フルールを乗っ取るかのように見られるからだ。