卒業                            〜ずっと隣にいた君に〜
いつもの朝
「冷たい!」 靴に水がしみてきた。 雪解けの季節はこれがあるから通学が大変だ。晴れた気持ちの良い朝。ふといつも目にする畑の向こうの山を見つめる。山際から少し暖かさを取り戻してきた早春の朝の日差しが私のコートを貫く。はあ、と白いため息が出た。
 私がこの景色を見るのもあとほんの数回。
 あの太陽がもっと暖かさを増してくる頃には私はこの村にいない。
 この雪が完全に溶け切った頃には、この村にいない。
 そして、彼も。    「風斗…」 つい寂しくなって名前を口に出してしまった。自分らしくなさすぎて、女々しくて自分で自分ににぎょっとする。
でも、それは事実なんだ。彼もその頃にはもうここにはいない。
 私の隣にも、きっといない。
 私達はこの村のアスファルトが、雪の下から顔を出すのを見ることはない。私と、幼馴染の風斗そして何人かのクラスメイトは中学卒業と同時に、都会の高校に進学するため、生まれ育ったこの村を出るのだ。 「出るのだ」なんて簡単に言ってみたけど、それはそんなに簡単なことじゃない。
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