婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
智明 side

我が子が生まれて数時間、俺は先程と変わらないテンションを保ち、息子の顔を見つめる。

基本的に子供は嫌いだが、我が子となるとこんなにも可愛いのはなぜだろう。

穴が開くんじゃないかってくらい見つめては、ニヤニヤと笑う。

そんなことを繰り返していると、母さんに声を掛けられた。

「ちょっと智明、赤ちゃんもゆっくり寝かせてあげなさい」

「見てるだけじゃないか。触ってない」

「長い時間そんなにまじまじと見られたら、寝れるものも寝れないでしょ。あなたも昨日の夕方から寝てないんだから、赤ちゃんが寝てるうちに少し休みなさい」

「疲れてない、平気だ。蛍が起きるまで、俺が見とく」

「泣いたら起きなさい。泣いてもないのにそんなに構ってると、疲れ起こすわよ。ほら、寝た寝た」

母さんに半ば強引に引き剥がされ、ムッとする。

俺が今この可愛い我が子と一緒にいれるのは、全部蛍のおかげだ。

10ヶ月間腹の中で赤ちゃんを守ってくれて、痛い思いをして産んでくれて。

そんな蛍に、俺は頭が上がらない。

「蛍、お疲れ様。本当にありがとう、ゆっくり休めよ。愛してる」

眠っている蛍の耳元でそう囁き、その傍らで俺も眠りについた。
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