婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「蛍、1人で百面相してどうした?」

「別になんでもないよ。お風呂ありがとう」

初夜のこと考えてました、なんて言えるはずもなく。

さりげなく智明から視線を外して、窓の外を見た。

「夜景綺麗だね」

「最上階だから、余計綺麗に見えるな」

「うん、街がキラキラしてる」

「人もめっちゃ小さくね?」

「ほんとだ、巨人になった気分」

下を見下ろすとたくさんの人たちが小さく見えて、巨人ってこんな気分なんだって思ったり。

「蛍、お風呂行こ」

「智明先に入ってきていいよ」

「まさか別々に入る気?」

「ダメですかね⋯?」

「うん、ダメ。ほら、早く行くよ」

「ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサー」

さっきから智明がずっとニヤニヤしてるし、絶対良からぬこと考えてるよね。

こんな顔、見たことないんだけど?

「蛍、服脱がないと風呂入れない。場所違うだけでいつも一緒に入ってるんだし」

いやまぁ、そうだけど。

場所が違うっていうだけで緊張するの、私だけ?

「お風呂気持ちいい〜⋯」

「だな、疲れ取れる」

「智明もう顔赤くなってるけど、のぼせて倒れないでよ?」

「風呂で倒れたことないから大丈夫」

ドヤ顔でそう言う智明に、思わず吹き出しそうになったのは、私だけの秘密だ。
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