婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「もし蛍さんが良ければ、智明も呼んだらいいんじゃないかしら。今頃、1人でウダウダしている頃だと思うし」

「今日は仕事が上手くいかないってボヤいてたから、ちょうどいいかもね」

「ちょっと電話してみますね」

お義父さまとお義母さまに断りを入れ、私は電話をする為に席を立った。

「もしもし、智明? 蛍だけど、今時間いい?」

<うん、大丈夫。何かあった?>

「今ねお義父さまとお義母さまと食事中なんだけど、もし良かったら智明もどうかなと思って」

<誘いは嬉しいけど、今ちょっと仕事が立て込んでて、今日は遅くなりそうなんだ>

「そっか、忙しいところごめんね」

<ううん、蛍の声聞けて良かったよ。それじゃあ、今夜は寝てていいからね>

「うん、分かった」

智明はそれ以上何も言わずに、電話を切ってしまった。

仕事忙しいって言ってたけど、私にはちゃんと聞こえたんだよね。

“智明、早くしてよ”っていう女性の声が。

「おかえりなさい、蛍さん顔色悪いけど体調悪い?」

「いえ、大丈夫です。智明はお仕事が忙しいそうで、来れないそうです」

「そうか、今度またみんなで食事に行こうか」

「えぇ、そうですね」

お義父さまの言葉にそう相槌を打って、もう何の味もしなくなったパスタを食べ進めた。
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