婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「それじゃあ蛍さん、また近々会いましょうね」

「はい。ご馳走様でした」

「またね、蛍さん。智明によろしく」

その智明は今私以外の女の人といます、なんて言える訳もなく。

お義父さまとお義母さまに会釈をして、タクシーを拾った。

「ただいま。って、誰もいないけど」

シーンとした家の中に入り、着替えを済ませてソファに座る。

今日は先に寝てていいよってことは、あの女の人を抱いてから帰ってくるのかな。

そして、そのまま私を抱くのかな。

智明のこと好きだったのは私だけなのかなとか、色々考えちゃって頭痛くなってきた。

「ただいま。あれ、蛍起きてたんだ」

「おかえりなさい。ごめんね、もう寝るから」

「風呂まだみたいだけど、もう寝るの? もしかして体調悪い?」

「いや、元気だよ。智明が先にシャワーしちゃっていいよ」

「ちゃんと湯船にお湯溜めて一緒に入ろ。俺がお湯溜めて来るから休んでて」

「ま、待って。今日は別々に入りたい」

「なんで? ていうか、ずっと表情暗いし何かあったでしょ」

「何もないから。もう寝るね、おやすみ」

半ば強引に話を終わらせて立ち上がったら、智明に手を掴まれた。

そして、恐る恐る智明の顔を見るとものすごく怒っていて。

だけどこっちもモヤモヤしてるし、今夜は徹底的に話し合いをしないと。
< 54 / 146 >

この作品をシェア

pagetop