婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「智明、なんで泣いてるの?」

「俺、蛍が隣にいないとダメっぽい。蛍のことばっかり考えて、他のことが何も手につかない」

「でも、中村さんを抱いたのは本当なんでしょう?」

「あんな奴、抱くわけないだろ。俺が、学生時代にどれだけ苦しめられたと思ってるんだ」

「じゃあ、中村さんが言ってたようなことはないの⋯?」

「嘘に決まってるだろ。父さんと母さん、それから光明に聞いてもらっても構わない」

泣きながらそう言う智明は本当に苦しそうで、見るに耐えなかった。

「蛍さん、こんにちは。私たちまでお邪魔させてもらってすみません」

「お義父さまに、お義母さままで⋯」

「智明の話は本当なのよ。あの人のせいで、うちの会社がめちゃくちゃになりかけたこともあるわ」

「すぐには無理かもしれないが、智明を信じてやってくれないか」

お義父さまとお義母さまが揃って私に頭を下げ、智明が私に嘘なんかついていなかったことを知り、自分がしたことが恥ずかしくなった。

「私の方こそ、ごめんなさい。私で良ければ、また一緒にいてくれませんか?」

「さっき、俺には蛍しかいないって言ったろ。俺から逃げようとしてるなら、どこまででも追いかけて、とっ捕まえるからな」

「ありがとう、そしてごめんなさい」

「俺の方こそごめん」

こうして、無事に仲直りをした私たちは、手を繋いで家に戻った。
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