婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「光明くんも、なかなか言うねぇ⋯」

「あいつは毒舌だよ。兄貴の俺がたじろぐくらいにはね」

2人のパワーバランスは、智明の方が強いのかなと思ったりしたけど意外と光明くんなのかな。

「ねぇ、蛍」

「なぁに、改まって」

「もし良かったら、俺ともう一度やり直してくれないか」

「何言ってるのよ。やり直すも何も、智明を嫌いになったわけじゃないし。ちょっと疑っちゃったところはあるけど⋯」

「呆れたんじゃない? 」

「呆れてないよ。私にこそ呆れたんじゃない?」

「蛍に呆れるわけないでしょ。蛍に捨てられないかなって、毎日ドキドキしてた」

「大丈夫、安心していいよ」

あんまりにも切なそうな顔で智明が話すから、私はそっと智明の手に自分の手を重ねた。

智明の手は冷たくて、少し震えていた。

「ごめん、俺情けないね。手震えてる」

「情けなくなんかない。不安にさせてごめんね」

こんな時にこんなこと思う私もどうかと思うけど、智明は顔がいいから泣いているところも美しく見えてしまう。

いつも思うけど、なんで私みたいなど平凡な娘がこんなハイスペックな人と結婚できたことが奇跡でしかない。

私はずっと、生涯独身で終えると思ってたしね。
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