婚約破棄を希望していたのに、彼を愛してしまいました。
「お待たせしました」

「あら、全然待ってないわよ。立ち話もあれだし、座って座って」

お義母さまにそう促され、智明と共に向かいの席に腰を下ろす。

結婚挨拶の時以来の緊張感に、思わず身震いした。

「何も取って食べたりしないから、そんなに緊張しないで。私まで緊張しちゃう」

お義母さまはそう言ってケラケラ笑い、智明も微笑んでいる。

いや智明さん、あなたよく緊張もせず微笑んでいられるなと内心思っているのだが。

それはさておき、いきなり本題に入る前にケーキと紅茶をお供に少しリラックスタイム。

とはいえ、私は何のリラックスもできなかったのだが。

「それで、どうして病院に? 蛍さん、どこか悪いの?」

「蛍は悪いところなんかないよ。母さん、俺たち子供ができたんだ」

「そうなの!?」

「そうなんです。先日、検査薬で陽性反応が出たので今日はきちんと診察してもらうために、病院にいました」

「そうだったのね⋯もう、それならそうと早く言ってよ! もっといいお店に連れて行ったのに」

「今ちょうど妊娠6週くらいだって。今が6月だから、来年の春頃に生まれる予定らしい」

「まぁ、そうなのね! あぁ、楽しみだわ〜!」

私たち以上の反応をしてくれたお義母さまに、安心する。

一気に肩の力が抜け、私は密かに胸を撫で下ろした。
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