"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
「さて、次はどこに行きましょうか?」

「新しく出来たカフェに行きませんか? そこのパスタが美味しいんですよ。電車で乗り継ぎはしなきゃいけませんけど……」

「良いですよ。ちょうど、お腹も空いてきましたから。その前に少し休憩しませんか?」

秋吾さんの左手の温もりが心地よい。秋吾さんの提案により私達は手を繋いだまま、桜の木の下に位置しているベンチに座る。

「桜の紅茶です。萌実さんが気に入ってくれると良いのですが……」

先生は紺色のトートバッグの中から、水筒を取り出して暖かい紅茶を注ぐ。

「美味しい……! ほんのりと桜の香りがしますね」

少し甘酸っぱいフレーバーの紅茶に、ほんのりと桜の香りがする。ピンクっぽい紅茶の色。デートの為に紅茶を淹れてきてくれるなんて、秋吾さんはマメだなぁ。

しかし、秋吾さんは以前にプレゼントしてくれた桜のイヤリングを身につけているのにもかかわらずに、その話題は振ってこない。気付いてくれるかな? と思って、あえて私からは言っていないのだが。

「これからも、こんな風に萌実さんとのんびりと過ごす時間を大切にしていきたいと思っています。基本的に私はインドアなんです。だけど、萌実さんとは沢山出かけたいなと思いますし、萌実さんが興味のある物に対して共感したいです」

秋吾さんは紅茶が入っている簡易用のカップを持ちながら、空を見上げて語る。同じように空を見上げると、どこまでも広がる青空に吸い込まれそうになる。
< 27 / 53 >

この作品をシェア

pagetop