"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
秋吾さんの部屋は想像通りの部屋だった。描きかけのアクリル画は、何と弁当屋が立ち並ぶ風景だった。それが終われば、喫茶店周りの風景を描くらしい。秋吾さんの絵画はとても細かく、繊細そのもの。両親に早く見せたい。絶対に泣いて喜びそうだ。

お昼にはサンドイッチなどのお弁当を食べ、好きな画家やミステリー小説から映画の話、行ってみたい場所などを話した。楽しい時間はあっという間で、秋吾さんの部屋にお邪魔してから、結構な時間が過ぎていた。

「名残惜しいですが……、そろそろ萌実さんをお送りする時間ですね」

気付けば、もうすぐ22時。両親には遅くならないうちに帰るとだけ伝えてある。二人きりの部屋だったけれど、キス以上の進展はなく、キスさえもしていない。はしたないと思われるだろうが、少しだけ進展を期待していた私。

秋吾さんともっと親密な関係になりたいと思うのは贅沢なのかな?

「萌実さんにお願いがあります。お別れ前に抱きしめても良いですか?」

時計を見ては俯く私にそう提案した秋吾さんは、返事を聞く前に私を抱き寄せた。私はすかさず、背中に腕を回して秋吾さんの胸元に顔を埋める。秋吾さんの心臓の音が規則正しく聞こえる。

「あの……」

「はい?」

「今度は教師と言う立場を忘れて、萌実さんと一緒にイケナイ事をしてみたいです!」

「イ、イケナイ事って何ですか?」

「そうですねぇ……、私と一緒に一夜を共にして頂きたいです」

ストレート過ぎる誘いに絶句。この後に及んで、何故そんなにもストレートに誘ったのかが分からない。甘やかな良い雰囲気だったのにもかかわらず、ぶち壊しだ。
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