"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
「赴任して来た日に早速、あの絵に釘付けになりました。以前から居た先生に聞いたところ、貴方が弁当屋さんの娘だと知り、どんな方が描いたのか気になって見に行ったのがきっかけで毎日通っています。今では弁当が美味し過ぎて……、私はハマると抜け出せない太刀なんです。特に唐揚げ弁当が最……」

樋口さんて話し出したら止まらないタイプ?

「あ、あの! お弁当も気に入ってくれてありがたいんですけど、私に会ってどうしたかったのですか? あの絵を描いたのが、私みたいな人でガッカリしましたか?」

私は樋口さんの話に割って入った。もう何年も前の作品が飾られていることにも驚いたが、絵画一つで私に会いに来た真意が知りたい。

「細い指で筆を持って、真っ白なキャンバスを細かく塗りつぶしていたのを想像しただけで、一緒に色を塗っている感覚に陥ります。私ならどうするとか、色々考えながら……」

予期せぬ返答に私は唖然とした。そして樋口さんは高悦したような顔付きで話しているので、少しずつ思考回路が危ない人なのかもしれないと思い始める。

「え? いや、そうじゃなくて。私に会った感想を聞きたかったんですが……」
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