"密"な契約は"蜜"な束縛へと変化する
いきなりの展開に更についていけない私。樋口さんは次から次へと、自分の心の内をさらけ出してくれるが、私には全てを受け止め
きれない。

「ちょ、っと待って下さい! 頭の中が上手く整理できませんが、先生は唐揚げ弁当と私の描いた絵がお気に入りで、更に私もお気に入りなんですか? それはつまり……、私の描いた絵がお気に入りだから、私もコレクションしちゃおう的な扱い?」

「コレクションではないですよ。純粋に好きなだけです。コレクションとして独り占めしてしまったら、美をお裾分け出来ない。例えば、唐揚げ弁当みたいなお気に入りは他の誰かにも存在を知ってもらい、共有したいです」

「唐揚げ弁当をですか?」

何が何だか、まどろっこしくて分からない。結局、樋口さんは唐揚げ弁当が好きというオチの話なんでしょ? 私は頭の中が混乱しているので、歩いている足を止めて夜道に立ち止まる。樋口さんは私が立ち止まったのに気付き、一緒に立ち止まる。

「分かりました。もう、こうなったら、ハッキリ言います。唐揚げ弁当も川崎さんが描いた絵も、川崎さんも全部が気に入っています。これで伝わりましたか?」

最初からそう言ってくれれば、直ぐに伝わったのに。私は面と向かって投げかけられた言葉から、頬に熱を帯びた。

街灯の下、僅かな灯りに照らされた私達は新しい一歩を踏み出す事となる。
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