溺愛ハンティング
その手に落ちるまで
 その桜が満開になったのは一月のはじめのことだ。

 『高砂屋百貨店』本店のエントランスを入ると、三階までの吹き抜けスペースが広がっている。
 その中央に大きな桜の木が据えられ、外では雪がちらついているのに、そこだけ春が来たみたいにみごとに咲き誇っていた。

「わあ」

 初めて目にした時は、思わず歓声を上げてしまった。

「桜って……今ごろ咲きましたっけ?」
「そういう品種もあるらしいけど、これは違うみたい。本当は春咲きなのに、業者さんが開花時期を調整したんですって」
「すごいですね! そんなことできるんだ」
「それより若葉ちゃん、もう行かないと」
「あ、はい」

 私は真冬の桜に背を向け、業務部門が入っている隣のビルへと急いだ。
 先輩たちと一緒に、企画宣伝マーケティング部へ来るよう呼ばれていたのだ。

 次の販促キャンペーンの件と聞かされていたが、内容はまだ教えられていなかった。
 もちろんその桜を咲かせた人が深く関わっていることも。
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