溺愛ハンティング
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 コンテストのために参加したツアーが始まって、すでに一時間近くたっていた。

 一面ガラス張りの温室はかなり広いし、三千種以上の植物が育てられているそうだから、時間がかかるのも当然だろう。
 あちこちで紺のつなぎを着たスタッフらしい人が水やりや剪定をしていて、すれ違うと笑顔で挨拶してくれた。

 今日のツアーは詳しい解説つきでここを回るものだが、八木苑には他にも一般に公開していない温室があり、春から秋には近くにある農園の散策もできるらしい。

「じゃあ、そろそろ休憩入れますね。アップルジュースを用意しておりますので、召し上がってください。もっと珍しい果物がいいかとも思いましたが、クセもありますし、変わったものは見る方がインパクトありますので」

 八木さんを取り巻く女性たちから笑い声が上がり、いいタイミングだと思ったのか、それぞれが競うように話しかけ始めた。

「うれしい! ありがとうございます、八木さん」
「少し暑くなってきたから、すごくおいしい!」
「それはよかった。お代わりもありますから、ご遠慮なくどうぞ」

 その時、ひときわきれいなベリーショートの女性が、八木さんに輝くような笑顔を向けた。

「わあ、きれい! 八木さん、ここに並んでいる鉢は何ですか?」
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