溺愛ハンティング
 ボタニカルツアーが終わったのは、それから約三十分後のことだ。

「みなさん、たいへんお疲れさまでした。今日はご参加いただき、本当にありがとうございます」

 八木さんが温室のエントランス近くで、身体が二つ折りになりそうなほど深くお辞儀をした。

「どうもありがとうございます!」

 その後ろで一列に並んだスタッフも、声をそろえて頭を下げる。キビキビした動きは見ていて気持ちがよかった。

 社員教育が行き届いているらしく、八木苑の施設内はどこもきれいだし、みんな表情が明るい。
 どうやら八木さんはリーダーとしても優れているようだ。

「ところで今日は楽しんでいただけましたでしょうか? このツアーがきっかけになって、少しでも植物に興味を持っていただければ、僕にとってこんなにうれしいことはありません。お荷物になってしまいますが、どうぞこちらをお持ち帰りください」

 スタッフがすかさず小さめのショッパーを配り始めた。
 ライムグリーンの地で、葉っぱを模した小さな銀色のロゴマークがしゃれている。

「あら、かわいい!」
「ほんとだ!」

 つられて中を見ると、テラコッタの鉢に植えられたミニプランツが入っていた。
 濃い緑色で、プックリした葉っぱがいくつも重なっているかわいらしいものだ。
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