溺愛ハンティング
「わあ」

 植物には興味ないはずなのに、思わず微笑んでしまう。

 するとすぐ隣、正確にはちょっと上の方から「コチレドンです」と低い声がした。

「えっ?」

 反射的に見上げると、八木さんがそばに立っていて、にっこり笑いかけてくれた。

「神経質に水やりする必要ないので、育てやすい子ですよ」
「……子」
「ええ。よかったら、たまに話しかけてやってください。喜びますから」

 さっきもそうだったけれど、まるで友だちのことを話すような口調だった。植物なのに……。

「はあ」

 私の中で、彼の印象がまた変化し始めた。

(この人、少し変わってるかも。いや……かなり?)

 八木さんは笑顔で頷くと、あきれ気味の私から視線を外して他の参加者たちに声をかけた。

「中に簡単な説明を入れてありますが、もしわからないことがあれば八木苑までご連絡ください」
「どうもありがとうございます、八木さん」
「大事にしますね。ありがとうございます」

 みんながそれぞれ八木さんに挨拶していた時、背中に微妙な振動を感じた。どこからか電話がかかってきたらしい。

 大きいバッグパックはたくさん入って便利だけど、こういう時にはやっかいだ。
 私はそばにあった台にショッパーを置いて、バッグパックの中を探った。
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