溺愛ハンティング
「わかばさんはおもしろいですね」
「えっ?」
「今もですけど、ツアーの間も俺のことをずっとガン見してましたよね。おとなしそうでかわいいのに、視線だけ妙に鋭いっていうか……ひょっとして俺に興味あるんですか?」
「ええっ?」

 右手で持っていたマグカップを落としそうになり、私は慌てて左手を添えた。

 確かに思いきり彼を観察していたけれど、まさか本人に気づかれていたなんて。

「あ、あの、そういうわけでは――」

 うろたえ過ぎて、どう答えればいいのかわからない。
 けれども八木さんのふいうちはまだ終わっていなかったのだ。

「俺は興味ありますよ」
「えっ?」
「あなたに興味があります。次はわかばさんのことを教えてくれませんか?」

 私は今度こそ硬直してしまって、声を出すこともできなかった。

 形のいい唇は口角が上がっている。それでいて八木さんの目は笑っていなかった。
 その視線はまっすぐで、まるで自分は本気だと訴えているようだ。

(いやいや、ないから!)

 彼は女性に大人気で、今日のツアーでも大勢から熱視線を浴びていたではないか。
 そんなこと、ちゃんと自覚しているはずなのに。

 それにどうして一番地味だった私に興味を持つのだろう? これは何かの冗談だろうか?
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