溺愛ハンティング
 私はなんとか落ち着こうと、無理やり口を開いた。

「みんなが八木さんを見てました、私だけじゃなく」

 すると八木さんは「ですね」と頷いてみせた。

「だったら――」
「俺、ドキュメンタリー番組の取材をされたことがあるんですよ」
「はっ?」

 いきなり話題が変わって、私はまたあっけに取られてしまう。

「その中に、断崖に生えている木の枝を切ろうとしているシーンがあって……自分がハンティングしているところを見るのは初めてでしたけど、目つきがね、やばいくらい真剣だったんですよ。当然ですよね。そこから落ちたら助からないような場所なんだから」

 八木さんは右の人差し指で自分の目元に触れてから、それを私の方へと向けた。

「同じでしたよ。わかばさんもそういう感じで、俺のことを見ていました。だから話をしてみたいと思ったんです」
「わ、私は――」

 そのまま返事ができずにいると、八木さんはふと目元をなごませた。

「おみやげのコチレドン、忘れてくれてよかったです。わかばさんと一緒にお茶できたから」

 ふいに体温が一気に上がったような気がした。
 顔はもちろん耳まで赤くなっている気がして、私は慌てて下を向く。

 こういう顔で、こういうことを言うのは反則だ。おかげでうるさいくらい胸が高鳴っている。
< 25 / 55 >

この作品をシェア

pagetop