溺愛ハンティング
 今日はほとんど化粧していないし、コンタクトではなくてボストンタイプのメガネをかけていた。
 髪も巻いていなければ、着ているのは淡いグレーのさっくりニットとダメージデニム。さらに大きなダークブルーのバックパックを背負っている。

 もともと目立つ方ではないものの、いつもよりさらに地味で、ある意味、参加者の中では浮いていた。
 職場の百貨店では一応フル装備だから、もう少しましなのだけれど。

 そして他の九人はたぶん八木さん目当てだから、私が彼の注意を引くのはおもしろくないはずだった。

(気にしない、気にしない。これも仕事のためなんだから)

 私は自分に言い聞かせ、あいまいな笑みを浮かべて、突き刺さるような視線をやり過ごした。

 実際、八木さんに個人的な興味はないし、もっと言えば、植物にもさほど関心はない。

 それでも私はこのボタニカルツアーで、八木耕輔という人を少しでも知らなければならなかった。だからこそ有休を使ってまで参加したのだ。

 そう、新しい販促キャンペーンの『BRUSH THE PLUSH』の勝者となるために。
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