溺愛ハンティング
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 その話を聞かされたのは一昨日、エントランスホールで満開の桜を見た後のことだ。

 高砂屋百貨店の企画宣伝マーケティング部は全店の広告制作、ブランディング、顧客管理、イベント企画やその運営を担当しているが、販売員である私がここに来たのは入社してから初めてだった。

 一緒に呼ばれた先輩の相田さんと後輩の真由ちゃんもいぶかしげにしている。
 私はメンズフロアでシャツを扱っているが、他の二人もそれぞれフォーマルウエアとカジュアルセレクトコーナーの担当だ。

 お正月が開け、ヴァレンタイン商戦が始まって、店内にはもう春物の商品が並んでいる。
 次の販促となると、夏に向けてのキャンペーンだろうか?

 まったく見当がつかずにいる私たちの前に、今回の担当だという堺さんが三枚の写真を並べた。

 写っていたのはそれぞれタイプが違うものの、かなりのイケメンばかり。
 堺さん自身も整った顔立ちだが、彼らは別格だ。そしてその恰好と背景からひとりは板前さんで、もうひとりは呉服屋さんらしいと判断できた。

 ところが最後の男性はいったい何者なのかさっぱりわからない。
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