溺愛ハンティング
 ヴァレンタインデイを控えて、店には大勢の女性客が訪れる。
 彼女たちがこれを見れば、チョコレートだけでなくメンズウエアにも手が伸びるかもしれないと、このキャンペーンが企画されたそうだ。

「じゃあ、この人は相田さんで、この人が林さん、それから彼の担当が鳴瀬さん。はい、これは彼らの詳しいデータ。サイズも書いてあるからね。あと、近いうちに顔合わせも予定してます」

 結局、相田さんは老舗呉服店の若旦那さんを、真由ちゃんは高級料亭の板前さんを引き当てた。

 そして私が引き当てたのは……プラントハンターの八木耕輔さんだ。

「えっ、これって……何?」

 思わず声を上げてしまい、慌てて堺さんに頭を下げた。

「あ、すみません。でも堺さん、あの、プラントハンターってどんなお仕事なんですか?」

 初めて耳にする職業で、どんな仕事なのかもさっぱりわからず、すっかりうろたえてしまったのだ。
 呉服屋さんや板前さんならイメージしやすいのだが――。

「ごめん、鳴瀬さん。実は僕もよくわからないんだ。花屋さんとも違うみたいだけど……いずれにしても園芸系らしいよ」
「園芸系……ですか」

 あまりに漠然としていて、納得できる答えではなかった。

 もしかしたら私は不満そうな顔をしてしまったのかもしれない。堺さんが慌てて「桜だよ」と言い添えたのだ。
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