溺愛ハンティング
「桜?」
「そう。今は一月なのに、エントランスホールで桜が咲いてるでしょ? あれ、八木さんが手配してくれたんだって」
「……そうなんですか?」
「はじめは全然違うプランだったらしい。だけど社長がどうしてもあそこに豪華な桜を飾りたいって言い出して、急だったからどこからも断られて、彼だけが引き受けてくれたって聞いたよ。だからたとえば植物関係で無理めのオーダーをしても、それをちゃんと調達してくれる仕事……だと思う、たぶん」
「あの――」

 私はおずおずと堺さんを見た。
 できれば、誰か他の人にこの役目を代わってほしかったのだ。

 もともと私は内気で、引っ込み思案だ。
 生活雑貨が好きで百貨店に入社したものの、メンズフロアへの配属は想定外だった。

 もちろん仕事だから毎日がんばっているし、苦手な接客も最近はなんとかうまくこなせるようになった。
 それでもコンテストに参加するなんて、ランウエイを歩くのが自分ではないとしても、やはり気が進まない。

 それに八木さんの写真を見て、まず感じたのはどうしようもない苦手意識だった。

(顔合わせなんて……無理)

 私はこっそりため息をついた。
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